「取り込み中ごめんね、でも僕の存在を忘れないでね」

「あ、オリバー様……すみません取り乱してしまって」

「いや、いいよ。エリカさんの気持も分かる。元々ライがいつまでもはっきりしないのが悪いんだから。あ、でもライの呼び方は今まで通りでいいからね。グラウディウスって名前も親しい人に様付けされるのもライは好きじゃないんだよ」

オリバー様の言葉に、私は小さく頷いた。
辺境伯子息と大公子息。本来ならこんな風に話す事もない相手と対峙して、もういっぱいいっぱいになっていた。反論する気など沸いて来ない。

「さて、話を戻すけど、まずは僕が出奔していた理由は、ライがサウランを出た事と同じなんだ。詳しくは省くけど、サウラン辺境伯家とフォーセル大公家、どちらでも後継者問題が起きていた。僕は次男だし、ライは現大公の子ではなく甥なんだけど、僕たちはどちらも優秀だからね。周りが僕たちを次期当主にって言いだした事で現嫡男たちが慌てた出したんだ。愚かにも刺客を送って来た。僕とライは命からがら逃げだしたって訳」

「では……ライはその刺客に追われてミント村に?」

「そうみたいだね。もうやばいって所でエリカさんと出会ったって聞いているよ」

出会った時のライのボロボロだった姿を思い出す。

水も飲まずに二日間山を彷徨ったった言っていたっけ。

「そうだったんですね……私てっきり盗賊に襲われたのだと思っていました」

「大して変わらないけどね、ライは以前刺客に記憶まで奪われているから」

「記憶を?」

「聞いていない? ライは何年か前、フォーセルにいた頃精霊の加護に関する記憶を奪われてるんだよ。敵の中にそういった能力の精霊の加護の持ち主がいたみたいだね。まあそんな事もありフォーセルを離れてたんだけど、今回また襲撃されてしまったんだ。突然の事で武器もない上に能力も使えないライは成すすべもなく、山を逃げ回っていたってわけ」

ライの方へ目を向ける。

彼は物悲しい様子で私を見つめていた。

「……大変だったんだね」

「いや、俺は……」

ライが何か言いかけたのを阻み、オリバー様が声を高くした。

「それでさ、僕の方は力も使えるからライよりは楽にサウランの都から脱出して反撃の機会を伺っていたんだ。兄上の卑劣な行いの証拠を集め彼を廃嫡に追い込むため動いていた。サウラン一帯は兄の目が光っていたけど、トレヴィア王都の知り合いが支援をしてくれていたんだ。それで何度かトレヴィアと行き来していたんだけど、偶然この村に立ち寄りライを発見したって訳」

「そうだったんですね……」

「驚いたよ。すっかり村に馴染んでいたから。直ぐにライにサウランに戻るように言ったけど全然言う事聞かないし、しまいにはフォーセルにも戻らないって言いだす。なんでかと聞けば精霊の加護の力を失ったから、フォーセル家の継承者に成りえないとか、とって付けたような言い訳ばっかりでさ。それで説得しようと何度かミント村を訪問したって訳」

オリバー様は私をじっと見つめながら続けて言う。