「身分?」

「そう。僕の本名は、オリバー・カミル・フォン・サウラン。ここまで言えば分かる?」

サラリと発せられたその言葉に、私は大きく目を見開いた。

「オリバーって……辺境伯様のご子息? 行方不明だって言われている?」

「そう。出奔の事も知っていたんだ。エリカさんって結構情報通だね、さすが子爵令嬢」

「え……私のことご存知なんですか?」

未だ混乱が覚めない私に、カミラさん……いや、オリバー様は平然と言う。

「それは当然調べたよ。だってライが執着している女の子なんだからね」

「カミル! 余計な事を言うなよ」

それまで黙っていたライが、オリバー様に睨みを利かす。
そういえば、オリバー様とライの関係って何なのだろう。

「あの……ではライはサウランに居た時に、オリバー様に仕えていたのですか?」

ライの言動からとてもそうは思えないけど、他に接点が思いつかない。
サウラン辺境伯と言えば、トレヴィア王国内でも最上位の貴族。その子息と友達なんて事はあり得ないと思うし。

けれど、オリバー様はあっさりと否定した。

「まさか。ライとは従弟同士なんだ。幼馴染でもある」
「えっ?」

私は驚きライに視線を移す。

「オリバー様と従弟?……でもライは貴族じゃないって……嘘だったの?」

ショックで声が震えてしまう。

「エリカさん、ライは自分のことを貴族じゃないって言ったの?」

オリバー様が問いかけてくる。

「はい、以前に聞いたとき、公爵でも侯爵でもないと。他の爵位も無いと言っていました」

どうして嘘をついたの? 内心傷つきながらライを見つめる。

「ああ、それはね、嘘とも言えないな。確かにそれには当てはまらない。彼は……」

オリバー様が返事をしようとした時、気まずそうな顔をしていたライが、それを止めた。

「カミル待て、自分で言う」

ライは私を真っすぐ見つめて言う。