カミラさんとは、お客様の利用時間が終わる直前に待ち合わせをした。

ラナも誘おうかと思ったけれど、カミラさんに断りなく連れて行くのは良くないだろうと思って留守番を頼んだ。




利用時間間際だった為、女湯には誰もいなかった。

カミラさんとふたりの貸し切り状態だ。

運よく空には雲がなく、満点の星が輝いていて絶好のロケーションだった。

私は先に入り、果実水を湯舟の脇に置く。

カミラさんは後から入って来てかけ湯をすると隣に入って来た。

彼女は恥ずかしがりやなのか、きちんとタオルを巻いている。

本来温泉の中にはタオルで入らないで欲しいのだけれど、あとは掃除をするだけ。
今日のところは細かい事は指摘せずに楽しむ事にした。


「まあ、星が綺麗」

カミラさんは空を見上げて言う。

「夜の温泉も良いですよね。とても幻想的で」

星の輝きが引き立つように、湯舟の周りの灯りは絞ってある。

カミラさんの表情はそれほどよく見えないけれど、きっと満足そうに空を見上げているのだろう。

「ねえ、エリカさん」

「はい」

「ライがここを出ると言ったらどうする?」

「え……」

私は取り繕う事も出来ずに顔を強張らせる。
暗くて良かったと思った。
きっと今の私の顔は引きつってしまっているから。


「そろそろライも本来の場所に戻った方がいいと思うの。彼にもそう言ったのだけれど、乗り気じゃなくて。本人が言った訳じゃないけれど、エリカさんの事を気にしているんじゃないかと思うの」

「……そうなんですか。確かに私はライに頼っている面が多いので、心配してくれたのかもしれません」

先の事への約束を何度も強要した。
そんな事からライは私の考えを察していたのかもしれない。

「エリカさんはライを手放せない?」

カミラさんは核心に迫ってくる。

私の想いは手放せない。だけど、そう言ってはいけないと頭で分かっている。

『私もライは元いた場所に帰るべきだと思います』

そう言わなくてはと、自分に言い聞かせていたそのとき、静寂を破るように荒々しい足音が聞こえて来た。

びくりと体を縮こませたのと同時に、目隠しの壁の向こうからライが姿を現した。

信じられない事に驚く私達を目にしたライは、苛立たし気に激しく顔をしかめた。