こんな事じゃダメなのに。

いつかライとは別れるのだから、あまり依存してはいけない。
そう思うのだけど、なかなか気持ちが切り替わらない。

「そろそろ戻るか?」

「うん」

多分、一緒にいるのがか心地よいからだ。
隣を歩いていてくれるだけで、ホッとするし、満たされた気持ちになる。

他愛ない話や、真面目な話、時々ふざけた話をしながら、歩くのが楽しくて、とても大切な時に感じる。

そんな事を心の内で考えながら、ライと新しい部屋の構想について語りあっているうちに、あっという間に館に帰り着くとラナが出迎えてくれた。

待ち構えていたようだ。

「ただいま。何かあったの?」

ラナが門まで出迎えてくれるのは、何か普段とは違うことがあった時。

だからそう尋ねると、ラナは嬉しそうに微笑んだ。

「はい、お嬢様、カミラさんがまた泊まりに来てくれるそうです」

「本当?手紙が来たの?」

宿の予約方法は主に二つある。
往路で泊まった時に、復路の日程で予約を入れるか、使者や手紙を出して、希望の日を押さえておくという方法。


「はい。五日後にいらっしゃると。ちょうど部屋が開くタイミングだったので、押さえておきました。今回は長期滞在したいとのことです」

「そうなの? 嬉しいわ、温泉を気に入ってくれたのね」

「そうみたいです」

憂いを帯びた表情の、絶世の美女、カミラさん。
思入れ深いお客様である彼女との再会は楽しみだ。

ラナと盛り上がっていたのだけれど、ふとライが静かな事に気が付いた。

隣に視線を向ければ、彼は酷く険しい表情で、じっと足元を睨んでいた。

「ライ、どうかした?」

声をかけるとハッとしたように顔を上げた。

「いや、何でもない」

ライはそう言ったけれど、明らかに様子がおかしい。
なんだか、モヤモヤとした気持ちになった。