「大丈夫か?」

「うん、ライのおかげで」

「ごめんな。直ぐに気付けなくて……怖かっただろ?」

ライは心配そうに言う。私は小さく頷いた。

「怖かったし驚いたわ。まさかレナードがあんな事をするなんて思わなかったから」

「強引に部屋に入られたのか?」

「ううん、部屋に入れたのは私の判断。まさかあんな事になるとは思わなかったし、もしも何かあってもレナードくらいひとりで撃退出来ると思っていたから。油断したわ」

正直にそう言うと、それまで心配そうだったライの顔に驚きが浮かんだ。

「自分で入れたのか? なんでそんな事をするんだよ」

「だって秘密の話があるって言われたから。詳細はコンラードが来たら話すけど、妹の事で問題が起きたの」

「妹の?……それにしたって無防備すぎるだろ? 以前から思ってたけどエリカは男を甘くみているよな。あんな薄着で外の温泉に入ったり、若い男の客の対応も平気でひとりでするし」

ライはイライラとした様子で言う。

「え……なんで急に怒ってるの?」

「エリカがあまりに世間知らずだから腹が立つ」

ライの剣幕に私はぽかんと口を開く。

世間知らずって……私はそこら辺の貴族令嬢に比べたらかなり世慣れしていると思うけど。

なんと言っても一般人だった前世の記憶があるのだ。
実際の年齢より、精神的に発達しているって言うのに。

ライは私の内心の驚きになど気づかず、腕を組んで私を見降ろして言う。


「いいか、これからは男にもっと注意しろよ」

「あの、今までも何も考えていない訳じゃなかったけど。レナードの事だってあの謎の力さえ無ければ追い出せたんだし」

「それが過信って言うんだ。あれは風の力だった。大して強くはなかったけど、女の力で抗えるものじゃない。だいたいあいつがエリカを物欲しそうな目で見ていたのに気づいていなかったのかよ? 部屋に入れるなんて襲って下さいって言ってるようなものだってのに」

「……物欲しそうな目なんてしていた?」

そんな視線全く感じなかったけれど。

レナードは私に興味がないと思っていた。多分婚約者時代から女性として見られていない。

「あいつが迎えに来た時点で、あからさまにそういう目をしていたけど? なんで気付かないんだよ」

「そんな事言われても……でもだからレナードは愛人になれなんて言い出したのね」

「は、愛人? そんな事言われたのか?」

「うん。ベッドに押し倒されながらで冗談にしても笑えない状況だったわ」

さすがに貞操の危機を感じたもの。

ライは盛大な溜息を吐いた。