部屋に飛び込んで来たライは、私達を視界に入れると、驚いたのか立ち止まった。
けれど次の瞬間には怒りの表情を浮かべ近寄って来ると、私にのしかかっているレナードを引き離した。

「うわっ!」

ライの突入ですっかり動揺していたレナードは、ろくな抵抗も出来ずにベッドの下に転がった。
重みが無くなってホッとしていると、ライに声をかけられた。

「エリカ、大丈夫か?」
「一応無事なんだけど、上手く身体が動かないの」

そう訴えると、ライは私の頭から爪先までを素早く眺め、舌打ちをしたと思ったら、手を伸ばし頰に触れて来た。

偶然にも先程レナードに触れられたところだった。

でもライだと嫌じゃない。それどころか私はとても安心している。

ライは小声で何かを呟き、頰に触れていた手をゆっくりと首元に下ろしていく。

「え? あ、あの……ライ?」

触れられるのは嫌じゃないけれど、あまり際どい所を触られるのは恥ずかしい。
オロオロしていると、ふっと身体に開放感を覚えた。

「……あれ?」

試しに起き上がってみる。
いつもの様に簡単に上半身を起こす事が出来た。

レナードの精霊の加護の力の影響が消えたんだ。

ホッとしながら、少し乱れてしまった髪と服を整えていると、ヨロヨロと立ち上がるレナードが視界に入った。

「お前……使用人の立場でこの僕に暴力を振るうなど許される事ではない。覚悟は出来てるだろうな?」

レナードのライに対する恨み言に、私は驚き反論する。

「私が助けてって言ったから、ライはあなたに手荒な事をしたのよ! 怒るなら私にしてよ!」

「エリカは黙っていろ! 僕はこの男と話し合っているんだ」

「で、でも!」

話し合いじゃなくて、一方的に罵っているだけじゃない。

権力を傘に来てやりたい放題のレナードに怒りが湧いて来る。

悔しくて睨みつけていると、ライが私達の間に割り込む位置に立ち、冷静な声でレナードに答えた。

「当主代理を床に放り投げた罪は逃げずに受けます。だが、償うのはあなたもだ」

「は?……この僕が何を償うって言うんだ?」

「お嬢様に対する暴行です。現当主の令嬢への卑劣な行いは、次期当主だからと言って許される事ではありません」

ライの言葉にレナードは顔色を変える。

「暴行とか卑劣とか言いがかりだ。僕とエリカは元々婚約していたんだぞ?」

「婚約は解消されたと聞いています。もう他人だ」

「……エリカだって同意していたのも同然だ、この部屋に僕を招き入れたのはエリカ自身なんだからな」

「あ、あれは、秘密の話が有るって言うからでしょう?」

エミリーの不貞疑惑が無ければ一歩だって入れたりしなかった。

都合よく事実を変えるレナードに怒りが込み上げる。

ワナワナしている私とは対照的に、変わらず落ち着き払ったライが答える。

「どこが同意していたんだ? 精霊の加護の力まで使って無理矢理押さえつけて。耐えられないほど嫌だったからエリカは俺を呼んだんだろ⁈」

ライも相当怒っているようだった。
それまでのよそ行きの態度は消え去り、素の言葉遣いになっている。

レナードはライの迫力に圧され、何も言い返せない。けれど屈辱を感じているのか、唇が震えていた。