家の存続危機なのは分かったけれど、それでもレナードの愛人なんてまっぴらだわ。

それだけは譲れないこと。

「ま、待って! エミリーが不貞を働いたのが事実ならば、賠償金はなんとかして支払います。でも他の条件は飲めないわ」

レナードは、私を押さえつけたまま眉を顰める。

「つまりは僕の妻にならないということか?」


だから妻ではなく、愛人でしょう?

喉元まで出かかった言葉をなんとか飲み込む。


だけど、これからどうしよう。

賠償責任として、ミント村温泉リゾートの権利も、手放さなくてはならない。

そうしたら私は、また一からやり直せるのだろうか。自立する手段を得ることが出来る?

仕事が無くなったら結局レナードの管理下に置かれてしまう。


不安にさいなまれている内に、レナードの手の力が増していることに気がつき、私は少し動揺した。


「あの……とにかく離してください」

何度も訴えるものの、レナードが動く気配は少しもない。

それどころか、異様に顔を近づけて来て、今にもキスしてしまいそうな距離感に!

ゾワリと鳥肌が立ち、気持ち悪さに耐えられなくなった私は、レナードを退かそうと腕を突き出した。


そんな事をしたら怒りを買いますます状況が悪化すると頭では分かってはいるけれど、これ以上は耐えられない。

レナードをベッドから振り落とし、とりあえず部屋から出ようとした。

けれど、なぜか力が入らない。
結構本気で力を入れているのに、レナードはまるで大きな岩の様にビクともしないのだ。

な、なんで?

レナードは武官ではない。武器の訓練も苦手で、殆ど心得がない生粋の貴族の御坊ちゃま。

対して私は精霊の加護に身を守る力がないことから、幼い頃から護身術を真面目に学んでいた。

何かあっても抵抗出来るはすで、だからこそレナードと二人きりになったのに、こんなことになってしまうなんて。

どうしようと、本格的に焦り始めた私にレナードは不敵に笑ってみせた。