エミリーはレナードが好きだったんじゃないの?
姉の婚約者と知っていても気持ちを抑えられないくらい強い想いだったんじゃないの?
それが不貞なんて信じられない。
だけど……『お姉様を傷つけるつもりは無かったの』と泣きながら訴えて来たエミリーの声が脳裏に浮かんだ。
あの子は自分の気持ちにあまりに正直だ。
もし、レナードよりも好きな人が現れたら、気持ちのまま動いてしまうだろう。
それがどれだけ人を傷つけるのか、考えらないのだけれど、悪意だけは本当にないのだ。
だから、とてもタチが悪い。
「……本当のことなの?」
ようやくそう言うと、レナードはすぐさま首を振る。
「ああ、とても残念だが。その事で君にも相談がある。部屋に入れてくれないか?」
「……いいわ」
まだ驚きから抜け出せないまま、扉の前から下がる。
同時にレナードが部屋の中に滑り込んで来た。
「え? お嬢様⁈」
ラナが困惑の声を上げる。
「ラナ。レナード殿と話をするから少し外していて」
「お嬢様、それは……」
ラナは動く様子はない。常識として未婚の私が男性とふたりきりになるのは良くないからだ。
でも、今はそんな事を言っている場合では無かった。
「ラナ、お願い」
「で、でも、お嬢様の顔色も良くありません」
「大丈夫だから。終わったら呼ぶから」
強く訴えると、ラナは渋々と言った様子で部屋を出て行く。
私は不安の溜息を吐いた。
エミリーの不貞でアクロイド侯爵家の怒りを買ってしまったら、クレッグ子爵家はおしまいだ。
貴族社会での居場所を失い、アクロイド侯爵家からの資金援助もなくなったら、家族も使用人達も路頭に迷ってしまう。
同じ不貞行為でも、私と婚約破棄した時と状況が違う。
あの時はアクロイド侯爵家にも非があったけど、今度は我がクレッグ子爵家のみの非で、ふたつの家の力関係から、それは大変な問題だった。
エミリーだってそんな事は分かっているだろうに……。
向かい合わせでソファーに座ると、レナードが切り出した。
「驚いているみたいだな。義父上から聞いてなかったようだ」
「ええ……あの、エミリーのこと、詳しく教えてください。不貞に間違いないのですか?」
恐る恐る聞くと、レナードは冷ややかな目をして頷いた。
「ああ、この耳で聞いたから間違いない。エミリーは、僕以外の相手に愛を囁いていたよ」
「そんな……一体、誰が相手なのですか?」
「第三王子殿下だよ」
「……! ま、まさか……」
気が遠くなりそうだった。
第三王子殿下だなんて……そもそも殿下には高位貴族令嬢の婚約者がいるはずなのに、そんな相手に迫ったと言うの?
「相手が相手だから僕もその場で騒ぐ事は出来なかったから大事にはなっていない。だが起きた事は消えない。アクロイド家はとんだ恥をかかされたよ」
「そ、それは……申し訳ありません」
私はふらふらとした思考のまま頭を下げる。
背筋が凍るような思いだった。
レナードが来た目的は温泉リゾートの権利の主張ではなく、エミリーの事だったんだ。
想像以上に最悪の事態に、指先が震えてしまう。
アクロイド侯爵家の怒りを買っだけでなく、もしかしたら王子の婚約者の家からも責められるかもしれない。そんな事になったら……。
もしエミリーが王子殿下と両想いだったとしても、正式な妃になれる可能性はない。
いくら気に入って貰っても子爵家では身分違い過ぎて周りが反対するだろうから。
レナードはエミリーとどうするつもりなのだろうか。
不安に苛まれていると、レナードが立ち上がり、近付いて来た。
姉の婚約者と知っていても気持ちを抑えられないくらい強い想いだったんじゃないの?
それが不貞なんて信じられない。
だけど……『お姉様を傷つけるつもりは無かったの』と泣きながら訴えて来たエミリーの声が脳裏に浮かんだ。
あの子は自分の気持ちにあまりに正直だ。
もし、レナードよりも好きな人が現れたら、気持ちのまま動いてしまうだろう。
それがどれだけ人を傷つけるのか、考えらないのだけれど、悪意だけは本当にないのだ。
だから、とてもタチが悪い。
「……本当のことなの?」
ようやくそう言うと、レナードはすぐさま首を振る。
「ああ、とても残念だが。その事で君にも相談がある。部屋に入れてくれないか?」
「……いいわ」
まだ驚きから抜け出せないまま、扉の前から下がる。
同時にレナードが部屋の中に滑り込んで来た。
「え? お嬢様⁈」
ラナが困惑の声を上げる。
「ラナ。レナード殿と話をするから少し外していて」
「お嬢様、それは……」
ラナは動く様子はない。常識として未婚の私が男性とふたりきりになるのは良くないからだ。
でも、今はそんな事を言っている場合では無かった。
「ラナ、お願い」
「で、でも、お嬢様の顔色も良くありません」
「大丈夫だから。終わったら呼ぶから」
強く訴えると、ラナは渋々と言った様子で部屋を出て行く。
私は不安の溜息を吐いた。
エミリーの不貞でアクロイド侯爵家の怒りを買ってしまったら、クレッグ子爵家はおしまいだ。
貴族社会での居場所を失い、アクロイド侯爵家からの資金援助もなくなったら、家族も使用人達も路頭に迷ってしまう。
同じ不貞行為でも、私と婚約破棄した時と状況が違う。
あの時はアクロイド侯爵家にも非があったけど、今度は我がクレッグ子爵家のみの非で、ふたつの家の力関係から、それは大変な問題だった。
エミリーだってそんな事は分かっているだろうに……。
向かい合わせでソファーに座ると、レナードが切り出した。
「驚いているみたいだな。義父上から聞いてなかったようだ」
「ええ……あの、エミリーのこと、詳しく教えてください。不貞に間違いないのですか?」
恐る恐る聞くと、レナードは冷ややかな目をして頷いた。
「ああ、この耳で聞いたから間違いない。エミリーは、僕以外の相手に愛を囁いていたよ」
「そんな……一体、誰が相手なのですか?」
「第三王子殿下だよ」
「……! ま、まさか……」
気が遠くなりそうだった。
第三王子殿下だなんて……そもそも殿下には高位貴族令嬢の婚約者がいるはずなのに、そんな相手に迫ったと言うの?
「相手が相手だから僕もその場で騒ぐ事は出来なかったから大事にはなっていない。だが起きた事は消えない。アクロイド家はとんだ恥をかかされたよ」
「そ、それは……申し訳ありません」
私はふらふらとした思考のまま頭を下げる。
背筋が凍るような思いだった。
レナードが来た目的は温泉リゾートの権利の主張ではなく、エミリーの事だったんだ。
想像以上に最悪の事態に、指先が震えてしまう。
アクロイド侯爵家の怒りを買っだけでなく、もしかしたら王子の婚約者の家からも責められるかもしれない。そんな事になったら……。
もしエミリーが王子殿下と両想いだったとしても、正式な妃になれる可能性はない。
いくら気に入って貰っても子爵家では身分違い過ぎて周りが反対するだろうから。
レナードはエミリーとどうするつもりなのだろうか。
不安に苛まれていると、レナードが立ち上がり、近付いて来た。