「お前は来なくていい。部屋に戻れ」

まるで虫を追い払うように手をさっと振る。
あんまりなその態度にもライは顔色を変えず、淡々と言う。

「申し訳ありませんがお断りします。お嬢様の護衛としては、側を離れる訳にはいきませんので」

「なんだと? 当主代行の僕の命令が聞けないと言うのか?」


レナードの目に剣呑な色が浮かぶ。


「俺の雇い主はお嬢様ですから」

「……! エリカ、この無礼な男に部屋に戻るよう言うんだ!」


レナードは機嫌悪く言う。
だけど、私がそんな事を言うはずがない。

「ライは護衛だから私の行くところに同行するの。それが不満なら案内は他の者に任せるしかないわ」

従わない私に苛立つのだろう。
けれど、それ以上何か言う事はなく、レナードは外に荒々しい足取りで向かって行った。




村の中を徒歩で一通り回った後は、村から出て広範囲を馬を走らせた。

実はここでも一悶着有った。

ひとりで馬に乗れない私を、どうするかで。

レナードは、自分の馬に一緒に乗れと言う。
だけど相乗りはかなり密着する事になる。考えただけでもあり得ない。

婚約していた頃ならなんとも感じなかったかもしれないけれど、今となってはレナードと密着するなんて絶対に無理。

触れられたら寒気がする。

そもそも四年も婚約者をやっていたのに、スキンシップゼロだったのだから、今更距離を縮めることなんて出来るはずもない。


と、言う訳で私はライと一緒の馬に乗った。

それがレナードとしては相当不満だったようで、終始イライラと怒っていて、本当にめんどくさかった。

神経をすり減らす視察を終えて、館に戻った。

食事をして、温泉に浸かり、ようやく気分が和んだところで、再びレナードがやって来た。