丸まっていたおしぼりを広げるとホカホカと湯気が立って、凍っていた指先がじんわりと温められていく。ようやく座れたこともあって、私はふーっと息を吐いた。

カウンターの奥にはずらりとお酒の瓶が並んでいて、眺めているだけでも楽しい。


「……日本酒とか飲まれますか?」

「え」

「いや、あの、じっと見とるで好きなんかなと思って」


無意識のうちにお酒を眺めすぎていたらしい。店員さんはそう言って首を傾げる。


「えっと私、炭酸が苦手で、ビールよりも日本酒派というか」

「あー、なるほど。たまにおるなあ、そういう人」


納得したように頷いてから、店員さんは「……ああもう、ちょっと待てって」と誰もいないであろうカウンターの隣の席のほうへ言葉を発している。


「……へ?」

「あ、……すみません、気にしやんといて」


不思議な光景に、間抜けな声が出た。店員さんはそんな私の声で我に返ったのか、困ったような笑みを浮かべる。

気にしないでと言われると逆に気になるんですけども。

首を傾げた私をよそに、店員さんは後ろを向いてゴソゴソし始めた。

なんだろうと思いながらその背中を眺めていると、わりとすぐにこちらへ向き直る。


「よかったらなんやけど、これ飲んでみませんか?」


そうして店員さんがカウンターの上に置いたのは、透明な液体が入った小さなグラスだった。水のようにも見えるけれど、鼻を少し近づけるとふわりと独特の香りが漂う。


「お酒ですか?」

「うん。預かりものというか、もらったものというか……やから、えっととりあえずお金はいらんので」

「え! いいんですか!?」


お金はいらないという言葉に思わず反応してしまう。なにせ私は二十三歳無職である。ありがたいことこの上ない。