「いらっしゃい」
ガラッと引き戸を開ければ、すかさず飛んできた低い声。その声がしたほうを見て、私はぎょっとした。
古ぼけたカウンターの中に、紺色の作務衣(さむえ)を着た若い男の人が、ひとり立っていた……まではいい。問題は、その人の顔だ。
ちょっとつり上がった目が大きくて、スッと鼻筋が通っていて、見ようによっては整った顔立ちをしているけれど、強面という言葉がしっくりくる。
さらに、頭に巻いた白いタオルの下からは短い金髪が見えていて、耳にはピアスの穴が無数に開いていた。
いかにも、〝やんちゃしてます〟という雰囲気だ。
「好きなとこにどーぞ」
「え、あ、……はい」
店員さんらしき人はこの彼以外に見当たらない。というか店の中には、この人以外に誰もいなかった。
まあ確かに日が暮れたとはいえ、まだ午後六時だしそんなもんか。いやでも、外から見たときには笑い声も聞こえたし、活気があるように感じたんだけどな。
そう思いながらトレンチコートを脱いで、キョロキョロと店内を見回す。私が立っている入り口から見て左側にカウンターがあって、右側は座敷になっていた。
カウンターには椅子が五つ、座敷には四人掛けの机がふたつ並んでいる。初めてのお店でカウンター席に座るのは少し勇気がいる。だからといって、座敷にひとりで座るのもちょっと違う気がする。
「ここ置きますね。参拝の帰りですか?」
悩んだ挙句、一番奥のカウンター席に腰を下ろした私に、店員さんはすかさずお冷とおしぼりを出してくれる。
顔つきは怖いけれど、ひと声かけてくれるあたり、無愛想というわけではないのかも。
少しほっとしながら、私は頷いて答える。
「あ、えっと、まあ……そんなところです」
というか、再就職祈願のためだけにわざわざ来た者です……なんて心の中で付け足しつつ、苦笑いを浮かべた。