『なんだ、面白くない』

「面白さを求めないでおくれ」

『……あ、そういえばさ、最近めっちゃインスタ投稿してるのは伊勢をアピールするためだったりするの?』


夜になれば神様たちのたまり場になる一階に下りて、私はいつかのように一番奥のカウンター席に腰かけた。古ぼけたカウンターの木目を指でなぞりながら、今しがた葉月に言われたことをぼんやりと考える。


「……え、インスタ?」

『今まであんまり投稿しなかったのに、急にするようになったからどうしたのかと思って。しかもやたら上手に撮ってるし、フォロワーも〝いいね!〟も増えてるから、ちょっと気になって』

「えーっと……」


葉月の口から出てくるのは、まったく身に覚えのない話だった。

誰かと間違えているのかもしれない。しかしそれを指摘するタイミングは完全に逃した気がする。そのため私は、適当に相槌を打って話を合わせることにした。


「まあ、うん。ちょっと凝ってみようかと思ったんだけど。投稿しすぎかな?」

『ううん、ただ莉子にしては珍しいなと思って聞いてみただけ。投稿あると生存確認できるし、私も伊勢行きたいなとか思うしその調子で続けてみてよ』

「そ……、そうしようかな」

『うん。まあ、元気そうでよかった。もうお昼休み終わるから、そろそろ切るね』


早口でそう言った葉月に「また連絡するね」と告げて通話を終了する。通話時間を表示する画面が消えたのを確認して、私はホーム画面に並ぶボタンのひとつをタップした。


「……インスタとか全然開いてなかったんですけど」


誰かのアカウントを私のものだと勘違いして、葉月が話していたのならそれでいい。だけどもし、それが本当に私のものだったとしたら……。


一抹の不安を覚えながらそのアプリを開く。恐る恐る画面を見れば、通知欄に見たこともない数のハートが表示されていた。


「な、な、……なんだこれ」


最後に投稿したのはいつだったか、はっきりと覚えていないほど前のことだというのに、こんな数の〝いいね!〟がつくのは明らかにおかしい。

誰かにアカウントを乗っ取られたとかだろうか。もしそうなら、早いうちに対処しないと。

そう思いながら自分のページを開いて、私は言葉を失った。


「…………」


ずらりと並んだ、神社の写真。鳥居や橋を写したものもあれば、木々の間からこぼれる日の光や池の中を泳ぐ鯉を写したものもある。

それらの写真はどれも鮮やかに色が調整されていて、周りを白色の外枠で囲われていた。もれなく【#伊勢神宮】【#本日の外宮】【#ファインダー越しの私の世界】【#写真好きさんと繋(つな)がりたい】といったタグがつけられており、位置情報までつけて投稿するという徹底ぶりだ。

いつからこんなに投稿されているのか遡ってみると、ちょうど二週間前。唐揚げとビールのおいしそうな写真が投稿されていた。


これを見て思い当たったのは、もうあの神様しかいない。


「ああもう、トヨさんは……!」


隣の席をチラリと見る。

いつの日かそこに座って興味津々で質問をしてきた衣食住の神様が、伊勢神宮の外宮でいたずらっぽく笑っているような気がした。





【続きは文庫でお楽しみください**】