「例えばなんですけど、この唐揚げを普通に撮ると……」
カシャ、と写真を撮ってみせる。
「……唐揚げやな」
「うん、普通の唐揚げね。これがどうしたの?」
「私がなにも考えずに撮ると、こういう感じになるんですけど。これを構図とか考えながら撮って、明るさとか色とかを調整して、いい感じに加工して、よりおいしそうな唐揚げにすると、こう」
検索のところに【#唐揚げ】と入れると、画面の上のほうに人気投稿が出てくる。そのうちのひとつをタップして見せれば、ふたりは「おお!」と声を上げた。
「これは見栄えがええなあ!」
「パンケーキとかカキ氷とかの投稿を見てみると、もっと面白いかもしれないです。あとは食べ物だけじゃなくて、フォトジェニックな場所とかもあったりして――」
「伊勢は? 伊勢の写真はないの?」
そう言ってトヨさんが、私の肩を揺する。さっきまでベロベロに酔って愚痴を垂れ流していたとは思えないくらい、その瞳は輝いていた。
言われるがままに【#伊勢神宮】と検索をかければ、画面にずらっと写真や動画が並ぶ。
トヨさんは恐る恐るスマホを覗き込んで、かと思えば勢いよく顔を上げた。
「すごい! すごいこれ、みんな綺麗に撮ってくれてる! ねえ松之助、こんなのあるってあなたも知ってたの?」
「いや、俺はそういうの得意とちゃうから……」
苦笑いを浮かべた松之助さんに「まっちゃん、こっちビール追加で!」と座敷のほうから声がかかる。軽く返事をして仕事に戻っていく姿を眺めていると、隣から肩をバシバシと叩かれた。
「ねえ莉子、これどうやったらこうなるの? このもやーってした感じのやつはどうやってやってるの?」
「えっと、それはフィルターっていって……」
「フィルター? どうやってするの?」
興味津々といった様子で質問攻めするトヨさんに、操作の仕方を説明していく。
ふんふんと真剣に聞く姿を見て、私はなんとなくお母さんを思い出した。長年愛用していたガラケーをスマホに替えたとき、お母さんは今のトヨさんみたいに、分からないことがあればなんでも私に聞いてきたのだった。
神様ってすごく遠い存在みたいに思っていたけれど、実は私たち人間とそんなに変わらないのかもしれない。
座敷で宴会をしている神様たちの豪快な笑い声を聞きながら、私はこっそりとそんなことを思った。
* * *
「……なんか、悪かったな」
いつの間にか夜は更けていて、終電はすでになくなっていた。明日はなんの予定も入っていなかったため、帰るのは諦めて朝が来るのを待つことにした私に、松之助さんがポツリと呟いた。
「え、なにがですか?」
お冷をもらって酔いが醒めてきた私は、どんちゃん騒ぎをして酔っ払った挙句、眠ってしまった神様たちにブランケットをかけるのを手伝っているところだった。店の中にはグウグウ、ガアガアと神様たちのいびきが響いている。