「最近の子たちはみんなそれ持ってウロウロしてる!」
それ、と言いながらトヨさんが指差していたのは、私の持っているスマホだった。
「なんかそれに長い棒つけて、イエーイってよくやってるでしょ!? なんなのあれは!」
「あー……えっと、自撮り棒のこと?」
「ジドリボウっていうの? あれ持って歩いてる子って、大抵ちゃんと前向いて歩いてなくて転びそうだし、誰かにぶつかりそうだし、見てて本当にヒヤヒヤするのよね」
まったくもう、と頬を膨らますトヨさんは、いつの間に飲み終えていたのかまた空いたジョッキを掲げる。
「あと、あれはなに? やたら写真撮って投稿がどうのって」
「えーっと、インスタとかのことですかね。……こういうやつ?」
写真や動画を投稿できるSNSのアプリを開いて、その画面をトヨさんに見せる。
するとトヨさんは、食い入るようにその画面を見つめて「そう! これ!」と大きく頷いた。
「確かに流行ってますね、これ。私も大学生のときにとりあえずインストールしたけど、写真撮るの下手すぎて、最近はもう見るだけになったかも」
「写真に下手とかあるん?」
おかわりのビールを置きながら、そう聞いてきたのは松之助さんだった。じっと画面を見つめているトヨさん同様に、物珍しそうにしている。
「うーん、まあ楽しみ方は人それぞれだから、別にどんな写真を投稿しようと自由なんですけど。インスタは他のSNSと違って、文章じゃなくて画像がメインのアプリだから」
「へえ、そういう感じなんや」
「〝フォトジェニック〟とか、〝インスタ映え〟とか耳にしたことないですか?」
私がそう尋ねると、トヨさんと松之助さんは揃って首を傾げた。ポカンと口を開けたふたりの頭上には、ハテナが浮かんでいるように見える。
どう説明するのがいいかな、と少し考えながら視線を動かすと、自分の前に置かれている唐揚げが目に入った。