「これがまたビールとよく合うのよねえ」
私の隣で、トヨさんも幸せそうに頬張っている。おすすめしてくるだけあって、かなりお気に入りのようだ。唐揚げを流し込むようにビールを煽って、至福の笑みを浮かべている。
そんなトヨさんと共に舌鼓をうっていると、入り口近くから「ごちそうさまぁ」と高い声が聞こえてきた。視線を向ければ白いキツネが二匹、ぴょこっと耳を立てている。
「き、キツネがしゃべってる……」
「あれはお稲荷さんところのお使いキツネたち。今日はもう帰るみたいね」
驚く私に、トヨさんは平然と答える。松之助さんはキツネたちから代金を受け取って計算し、おつりを手渡していた。
「また、おいない」
そう手を振って、キツネたちを見送った松之助さんに、私はふと尋ねる。
「あの、『おいない』ってどういう意味ですか? ニュアンス的には『おいで』と一緒で合ってます?」
トヨさんの声に呼ばれていたときのことを思い返して言えば、松之助さんは「ああ」と頷いた。
「そやな、そんな感じで合っとるよ」
「松之助の口ぐせなのよね。いつも『また、おいない』って見送ってくれるの」
なぜか誇らしげなトヨさんに「へえ」と相槌を打つ。だけど確かに、普通に『ありがとうございました』って見送られるよりも『また、おいない』って言われたほうが次も来たいと思うかも。ちょっとした違いだけれど、お客さんからしてみたら結構嬉しいものなのかもしれない。
「ところで莉子、あなた唐揚げ食べないの? 全部食べちゃうわよ?」
「えっ、それはダメです」
トヨさんの視線が唐揚げに向いていることに気づいて、慌ててお皿を遠ざけた。そんな私に「冗談よ」とトヨさんは笑うけれど、油断も隙もあったもんじゃない。
取られないうちにもうひとつ、と手を伸ばそうとしたとき、不意にピコンと聞き慣れた電子音がした。
「あ、ちょっとすみません」
断りを入れて、バッグの中からスマホを取り出す。さっきの音はメッセージの受信を知らせる通知だった。ホームボタンを押せば【帰宅は何時頃になりそう?】というメッセージがお母さんから届いていた。
なにも連絡していなかったことを思い出して、慌てて画面をタップする。【帰宅は遅くなると思う。夜ごはんは食べてくるから気にしないで】と返信すれば、親指を立てた女の子のスタンプが送られてきた。了解したということだろう。
「……それ」
「え?」
画面を消そうとしたところで、不意に隣から声がかかった。