「ねえ、ちょっと莉子、聞いてる?」


どすん、とトヨさんが肩に寄りかかってきた。正直、他のことを考えていたけれど、私は「聞いてますって」と頷く。


「大体ねえ、両想いになれますように、とかお願いしに来るけど、それ私の専門外だから! 参拝するならその神社にどんな神が祀られてるかくらい、ちゃんと調べてきなさいよね」

「はあ、なんか神様って大変ですね」

「そうなの! もうね、ちょー、たいっへん」


段々と舌が回らなくなってきているトヨさんに、適当に相槌を打つ。

これ、完全に絡み酒ってやつだ。

かく言う私も、おかわりで頼んだ梅酒が予想以上においしくて、調子に乗って飲んでいるうちにふわふわとしてきたような気がしないでもない。


「それにねえ、最近の子たちは――」

「はい、お待ち」


まだまだ続きそうなトヨさんの愚痴に耳を傾けていたとき、それを遮るように、私たちの前にお皿が置かれた。


「唐揚げ! 来た来た!」

「わあ、おいしそうですね!」


千切りキャベツと一緒に、ゴツゴツと大きい唐揚げが六個盛られていた。ほわんと湯気が立っていて、まさに揚げたてといったところだろう。思わず歓声を上げたトヨさんと私を、松之助さんがおかしそうに笑った。


「これ、なにかタレがかけてあるんですか?」

「そう。まあ食べてみ」


普段私がよく食べる唐揚げよりも、濃い茶色でテカテカしているのを不思議に思って松之助さんに聞いてみれば、そんな答えが返ってくる。

確かに話を聞くより食べてみたほうが早い。じゅるりと垂れそうになったよだれを引っ込めながら、ひとつつまんで、ふうふうと冷ましてから口に入れた。

衣に歯を立てると、サクッといい音がした。次の瞬間、中に閉じ込められていた肉汁がジュワーッと出てきて、衣にかけられていた甘辛いタレと絡んで絶妙にまろやかな味わいが広がる。ふーっと鼻から息を吐くとニンニクの匂いがした。


「めちゃくちゃおいしいです、なにこれ!」

「たまり醤油っていうのをベースにした甘タレがかけてあるん。伊勢うどんのタレに使う、伝統的な醤油やで」


角がなくておいしいやろ、と自慢げな松之助さんに、コクコクと頷いた。