「うちの採用条件は三つなんやけど」
「三つって……?」
「賑やかなのが好きなこと。接客に向いてそうなこと。それから……神様の相手ができること」
どこかで聞いたことのあるような条件だ。
どこで耳にしたんだろうと思い返すと、お酒を飲む前に松之助さんがしてきた三つの質問によく似ていた。
「もしかしてあれ、面接だったんですか!?」
「まあ、最終確認というか。トヨさんが適任な子を見つけたって騒いどったから、一応聞いてみたんさな」
「……ん? でも私、神様の相手とかしたことないんですけど」
採用条件の三つ目。ひときわ変わったその条件に、私は当てはまらないのではないか。
そう言いかけた私の視界の隅で、ニヤリとトヨさんが笑みを浮かべる。
やけに綺麗なその笑顔を見て、嫌な汗が浮かんだような気がした。
「本当なら、俺みたいにもともと〝見える〟人に働いてもらいたいところやけど、そんなん言っとったら永遠に見つからんし。トヨさんの力が込められた、飲んだら〝見える〟ようになるヤバい酒をちょっと飲んでもらったってわけ」
「や、ヤバい酒……」
松之助さんの言葉を復唱して、くらりと目まいがした。
今の松之助さんの話だと、私はあのお酒を飲んだことで〝見える〟体質に変わってしまったということか。それは果たして喜ぶべきことなのだろうか。
「ていうかそもそも、どうして神様の相手ができないと採用してもらえないんですか……?」
私がそう、頭の中に浮かんだ疑問を口にしたときだった。
「よーっす、まっちゃん! とりあえずビールで」
「あれ! なに、トヨさんの見つけてきた人間ってその子?」
ガラッと引き戸が開く音と共に、ガヤガヤと入ってくるお客さんたち。
急に賑やかになった店内に呆気にとられている私に対して、松之助さんはさっきまでと変わらないトーンで、なんてことないようにこう言った。
「うち、神様たちのたまり場やから」