「梅酒のロックと、ポテトサラダと、豆腐のいくら乗せと――」

「私のおすすめは唐揚げ!」

「……神様って、お肉食べても大丈夫なんですか?」


注文している途中で口を挟んできたトヨさんに、精進(しょうじん)料理を思い浮かべながら尋ねれば、「やあね、確かに仕事中はあまり食べないけど、オフのときは別よ」と肩を叩かれた。

神様にオフとかあるのか。よく分からないけれど、トヨさんが言うならそういうことなのだろう。


「えっと、じゃあ唐揚げも」

「はいよ」


トヨさんのおすすめも一緒に注文すると、松之助さんは愛想よく頷いてくれた。

すぐに出てきた梅酒をちびりと飲みながら、隣でビールを煽るトヨさんを盗み見る。一度神様だと信じてしまえば、なんとなくその姿は神々しいような気がしてきた。

しかし、ちょっとしつこく参拝したくらいで神様が見えるようになったら、世の中大変なことになるんじゃないだろうか。

ふとそんな疑問を抱いて、首を傾げる。


「……私が知らないだけで、神様が見える人って意外と多かったりするのかな」

「なに、どうしたの?」


トヨさんに問いかけられて、我に返る。頭の中で考えていただけだったのに、どうやら声に出してしまっていたらしい。


「あ、いや、いまだにちょっとこの状況が不思議で、いろいろと考えてたんですけど……」


そう前置きをして、さっき抱いた疑問を正直に話せば、トヨさんは合点がいったように頷いた。


「莉子、あなた就職したいってお願いしに来たでしょ。私は産業の神様よ。人手不足のお店があるから、就職先を斡旋(あっせん)してあげようと思ってね。それで莉子のことを呼び寄せて、私の神通力(じんつうりき)を込めたお酒を松之助に頼んで出してもらったってわけ」


トヨさんはなんでもないことのように言って、ぐいっとまたビールを飲む。


「そうですか……って、ん?」


ちょ、ちょっと待って、ストップ。今のトヨさんの言い方からすると、私に就職先を紹介してくれるということだろうか。それはとてもありがたいことだけれど、さっき飲んだお酒の独特な味わいは、神通力風味ってこと!?


「トヨさん、多分あんま伝わっとらんで」


こんがらがってきた私の前に、ポテトサラダと豆腐のいくら乗せが置かれる。どちらの料理もおいしそうで、喉がゴクリと鳴った。


「莉子の就職先っていうのは、この店のこと」

「え!?」


補足するように口を開いた松之助さんに、思わず大きな声が出る。


「採用してもらえるんですか!?」


就職先がどこかということよりも、無職じゃなくなるということにテンションが上がって身を乗り出せば、松之助さんは苦笑いを浮かべる。