「ここ、信号ないんだな」
信号を渡って最初の交差点に差しかかった。前から学校方面へ向かう道路と右から左へ向かう道路、どちらも一方通行で信号はない。辺りにはマンションやビルなどの高い建物はなく見通しは良いものの、歩道にはガードレールもなく、消えかかっている白い線が引かれているだけだった。
「車が通らないってわけじゃないから、渡る時は注意が必要かも。特に急いでる時とかだと、周り見ないでダッシュで渡る奴とかいそうだし」
「そうだね」
私が軽く相槌を打つと、井上くんは傘を首と肩の間に挟み、空いた両手でスマホを持って道路の写真を撮った。正面、右、左と角度を変えながら。
肩に挟んだ井上くんの傘がずれ落ちそうになるたびに、私の手が反射的に動く。「傘、持つよ」本当はそう言いたいのに、出しかけた手は伸ばすことなく遠慮がちに自分の傘の柄に戻ってくる。
誰が見ているか分からないのに、そんな軽率なことは出来ない。何気なく取った行動が、今後の学校生活を脅かすことにもなりかねないんだ。些細なキッカケで簡単に地獄に突き落とされてしまうことを私は知っているから。
「よしっ」と呟きながらスマホを鞄に入れ傘を持った井上くんが、ぐるりと辺りを見回した。
「また分かれ道か、失敗したな。前もってどの道に行くか決めておいたほうがよかったかも。とりあえず今日は真っ直ぐ行くか」
井上くんとは挨拶や軽い会話を交わすくらいで性格はよく知らないけど、真面目で優しいと女子が言っているのを何度も聞いたことがある。確かにその通りかもしれないと思った。
信号を渡って最初の交差点に差しかかった。前から学校方面へ向かう道路と右から左へ向かう道路、どちらも一方通行で信号はない。辺りにはマンションやビルなどの高い建物はなく見通しは良いものの、歩道にはガードレールもなく、消えかかっている白い線が引かれているだけだった。
「車が通らないってわけじゃないから、渡る時は注意が必要かも。特に急いでる時とかだと、周り見ないでダッシュで渡る奴とかいそうだし」
「そうだね」
私が軽く相槌を打つと、井上くんは傘を首と肩の間に挟み、空いた両手でスマホを持って道路の写真を撮った。正面、右、左と角度を変えながら。
肩に挟んだ井上くんの傘がずれ落ちそうになるたびに、私の手が反射的に動く。「傘、持つよ」本当はそう言いたいのに、出しかけた手は伸ばすことなく遠慮がちに自分の傘の柄に戻ってくる。
誰が見ているか分からないのに、そんな軽率なことは出来ない。何気なく取った行動が、今後の学校生活を脅かすことにもなりかねないんだ。些細なキッカケで簡単に地獄に突き落とされてしまうことを私は知っているから。
「よしっ」と呟きながらスマホを鞄に入れ傘を持った井上くんが、ぐるりと辺りを見回した。
「また分かれ道か、失敗したな。前もってどの道に行くか決めておいたほうがよかったかも。とりあえず今日は真っ直ぐ行くか」
井上くんとは挨拶や軽い会話を交わすくらいで性格はよく知らないけど、真面目で優しいと女子が言っているのを何度も聞いたことがある。確かにその通りかもしれないと思った。