なにも考えずただなんとなく、引き出しを開けた。さっき見た戸籍謄本に手を伸ばし、上に重なっている書類を捲り上げる。

 本当になにも考えていなかった。確認しようとかそういう気持ちがあったわけでもなくて、気になったわけでもない。

 たまたまそこにあったから、ちょっと見てすぐに戻そうと思っただけ。それなのに……。



〝養子〟〝義母〟〝義父〟



 咄嗟に右手を離すと、持っていた書類がバサッと上に重なり戸籍謄本は見えなくなった。

 一瞬全ての時が止まったような感覚に襲われたあと、弱々しく横に首を振りながら一歩二歩、ゆっくりと後退りをする。

 不意にお腹を殴られたかのように、声も立てられない。

 訳も分からない衝撃が全身を貫き、思考は停止したまま次第に体温が上昇していく。


『な、に……?』


 ようやく言葉を発した私は、汚い物に触れるかのように一気に引き出しを押し戻し、階段を駆け上がった。

 腰が抜けたようにガクガクと震える足を必死に動かし、両手を階段に付きながら這うようにして部屋の中へ入った。


 そのままベッドにうつ伏せになっても尚、体と心が震えていた。意味の分からないものを目にした恐怖で、自然と涙が零れ落ちる。

 考えたくないのに、見えた文字が勝手に頭の中に映し出された。何度頭を振っても消えない。

 小さい頃からあたり前のように一緒にいた両親。毎年の誕生日を祝ってくれる両親。お父さん、お母さんと、そう呼んでいた両親は、本当の親じゃないの……? 

 私が、養子……?



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