中学卒業と同時に、両親が建売の二階建て一軒家を購入した。白い壁の同じような造りの戸建てが横に五軒並んでいて、その中の一つが私の家だ。
玄関の右側には車が一台停められる駐車場があって、空いたスペースには今日使わなかった私の赤い自転車が置いてある。庭と呼ぶには狭すぎるけど、玄関の左横のスペースにはきちんと手入れされた草花が綺麗に並べられている。
ドアの前には階段が三段あって、その一段目に右足をのせた。茶色いドアが目の前に立ちはだかると、私はのせていた足をもとの位置に戻し、一歩うしろへ下がる。
引っ越すと決まった時は嬉しかった。古い賃貸マンションから新しい一軒家に変わるなんてワクワクしたし、自分の部屋もある。それになにより、地元を離れることで中学校の知り合いに会わなくてすむことが嬉しかった。
引っ越してからは、百均で買ってきた小物を自分の部屋に並べて好きなように飾ったり、リビングやキッチンやお風呂やトイレまでなにもかもが新しくて、家に帰るのが毎日楽しみで仕方がなかった。
時々うざいと思うこともあったけど、親との関係は良好。特別裕福ではないけど誕生日やクリスマスにはプレゼントをもらって、年に二回家族旅行にも行っていた。物静かで優しいお父さんと、ちょっと口煩いけどなんでも話せるお母さん。いたって普通の家族だ。
中学の頃に虐めに遭った時は、家の中だけが唯一の私の居場所だった。それは高校に入学してからも同じで、周りに気を使い人の目を気にしながら送るつまらない高校生活なんかよりも、家にいる時の方が何倍も居心地がよかった。
新しい家に大好きな両親。学校の中でいくら自分を偽っていたとしても、それさえあれば私は私でいられる。
つい二週間前までは、そう思っていた……。