「あれ!? 正輝! てか愛花?」

 自動ドアが開き蒸し暑い空気が流れ込んできた瞬間、全身が硬直した。「あっ」と思わず出そうになった声をなんとか飲み込む。

「なにしてるの?」

 ミサの視線が私に向けられていることに気付き、私はそわそわしながら肩下まで伸びた毛先に触れ、井上くんを押し退けるようにして前に出た。


 違う、これはそういうんじゃない。
 言わなきゃ。ちゃんと考えて、言葉を間違えないように。


 自分の左腕を右手で掴み、視線を上げた。見定めるようなミサの視線が怖かった。でも逸らしたら動揺が伝わってしまうかもしれない。やましいことがあるのだと思われてしまう。


「す、凄い偶然だね! 学級委員の仕事で、ほら、夏休みに事故った人いたじゃん? あのせいで道路調査とかいうのやらなきゃいけなくなって。危険な道はないか調べてまとめるとかそういうのなんだけど、雨なのにほんと面倒だよ」


 まくし立てるように言葉を吐き出すと、急激に心臓の鼓動が速まる。不安と震えを隠すように、腕を掴む右手に力を込めた。

「あー、なんかそんな話聞いた気がするー」

 ミサのうしろにいた他のクラスの女子が思い出したように声を上げた。一瞬訪れた沈黙、雨の音が必要以上に耳に響く。

 早く、早く笑ってよ。居心地が悪くて、じっとしているのが辛い。胃が痛くて、暑いはずなのに背筋が冷たく感じる。


「そっか。大変だよね、学級委員も。そもそも高校で学級委員っていらないよね」

 ミサが私に微笑みかけてくれたことで、筋肉が少し緩む。まだ足が震えているけど、必死に笑顔を作った。困ったように眉根を寄せて、顔が引きつっていることを悟られないように両手で口元を覆いながら。