日が沈んで夜になった。私は自宅から徒歩で海へと向かうと、砂浜にはすでにふたつの影が動いていた。
「サユちゃーん!」
まだ開封されていない花火の袋を持ちながら、奏介くんが手を振っている。「よう」とヒロからも軽い挨拶をされて、不自然に私は会釈だけを返した。
「サユちゃん、見て見て。花火いっぱい買ってきたよ」
奏介くんが見せてくれた袋の中には手持ち花火から打ち上げ花火まで様々な種類のものが入っていた。
「……あの、ずっと連絡返さなくてごめんなさい」
「はは、いいよ。そんなこと。元気そうで安心した」
奏介くんはそう言って人懐っこい笑顔を見せる。
安心したのもつかの間に、ヒロは砂浜にしゃがみこんで、なにやらブツブツと独り言を言いはじめた。
「ガス残ってんのに全然つかねーんだけど」
ジュッジュッとヒロはライターを擦っていて、どうやら火をつけるのに手間取ってるみたい。
「俺の使う?」と、奏介くんが自分のライターを渡す。なんでふたりともポケットにライターが入っているのかは、あまり詮索しないことにする。
奏介くんのライターを試しに擦ると、すぐにオレンジ色の明かりが暗闇で灯った。
ヒロはそのまま砂浜に立てられたろうそくへと近づける。そして火が移る寸前に誰かの着信音が響き渡り、確認したのはヒロだった。
ヒロは画面を見るなり、ライターから手を離して急に腰をあげる。
「ちょっと電話してくるわ」
そう告げたあと、ザザッとヒロの足音が私から遠退いていく。