「ヒロ。ひとつだけ聞いてもいい?」
「ん?」
ヒロがじっと私を見ている。
……色素の薄い綺麗な目。そんなまっすぐなヒロにだから、私は聞いてみたいことがある。
「ヒロは、怖いことってある?」
私は学校も人の目も男も、消えてくれないあの日々の記憶も怖くて仕方がない。
「あるよ」
ヒロは即答だった。
それは軽いものじゃなくて、ちゃんと重たい返事で。強く見えるヒロにも怖いものがあるんだって分かっただけで、息が吸いやすくなった。
と、その時。ヒロのスマホが鳴って、どうやらメールが届いたようだ。暗闇にはブルーライトの光り。
彼女?と聞こうとしたけれど、私の言葉よりも先に「花火やりたいらしいよ、アイツが」と奏介くんのメールを私に見せてくれた。
何故か少し、ホッとしてる自分がいる。
「サユもやる?」
「え、え……?」
聞き間違いかと思って、私は口ごもる。
「だから花火」
「い、いや、そうじゃなくて名前……」
「サユじゃなかった?」
「そうだけど……」
まさか名前で呼ばれるなんて思ってなかったから、ビックリした。男の子にサユなんて言われたのは初めてで、自分の名前なのに、浮いた気持ちになる。
「花火、やんの?やらないの?」
私の気持ちなんて無視して、ヒロはすぐに答えない私を急かそうとする。もちろん私の答えは……。
「や、やる」
さっきまで世界の終わりのような気分だったのに、今は次の約束をしている。
そんな単純で、笑っちゃうぐらい簡単に救いあげてくれるきみは、私の正義のヒーローかもしれないよ。