「……ねえ、ヒロはバイトしてるんでしょ?」
私は唐突にそんなことを聞いていた。
年齢はふたつしか変わらないのに、ヒロはとてもしっかりしてるように見えるし、こんな場所で膝を抱えるだけの私とは違って、すごく大人に感じるから。
「まあ、運送の荷積みやったり、派遣の日雇いは何件か登録してるけど」
もっと詳しく尋ねると、学校以外の時間はすべて働いているらしい。だから同い年の学生と比べて、細身だけど筋肉質な身体をしてるんだ。
「なんかすごいね」
「すごいか?普通じゃね?」
きっとヒロが大人に感じるのは、ちゃんと自分で自立しようとしてるからだと思う。
「……学校辞めて、私も働こうかな……」
ぽつりと呟いた言葉は、どうやらヒロに聞こえてしまったらしい。
「なんで辞める必要あんの?」
「そ、それは……」
「辞めたいだけの理由で仕事なんて始めても長続きしねーよ。そんなに甘くないし」
正論を言われてカーッと、顔が熱くなる。
たしかに今の私は逃げるための理由を探している。バイト経験もなければ、男が怖いことも治ってないのに働くなんて……。本当に甘いね、私は。
「別に責めてるわけじゃねーんだから、落ち込むなよ」
また下を向く私にヒロが言う。
「え、あ、ごめん……」
「だから責めてないんだから謝るな」
「ごめんなさ……あ」
「バーカ」
白い歯を見せて笑うヒロに、胸がドキッとした。ヒロと話してるとバラバラだった心の欠片が戻ってくる感覚がする。
私の嫌いな男なのに、近くにいても平気な人。
それがなんでなのか私にも説明できないけれど。