結局、その日は早退した。そして次の日もおばあちゃんには体調が悪いと嘘をついて学校を休んだ。

ベッドに横になっていてもクラスメイトの顔が浮かぶ。

『やっぱり学校休んだね』なんて話ながら『本当のところはどう思う?』と、私の傷痕の原因を予想する。


みんな、みんな、自分じゃなければなんだっていい。

苦しさや痛さなんて、味わった本人しか分からない。だからあの男も平気で私を痛め続けた。それを見ていた母だって、私の痛さを想像することはできない。


辛いのは、いつも立場が弱い人間だ。

私もやり返せばよかった。

同じように、同じことをされたようにやってやりたい。

でも、やり返したところで、なにが変わったっていうの?


私、ひとりで。誰も味方なんていなかった生活で、この弱い拳を振りかざしたところで、私の5年間はきっとなにも変わらなかった。

そうやって、あの頃も今も私は耐えるだけの存在なんだ。


枕元でスマホが鳴っていた。昨日から届いている奏介くんからのメールはずっと返していない。

今は誰とも関わりたくない。


それから私は週末をはさんだ4日間、家から一歩も出なかった。

ずっと部屋にいる私におばあちゃんは『病院にいく?』と言ってくれたけど、私は首を横に振るだけ。


おばあちゃんも私の体調不良が精神的なことだって気づいている。それでもかける言葉を探すように『ゆっくり休んでね』と言うだけ。


ゆっくり休む?休むってなんだろう。

どこにいても追い込まれる状況で、寝ていてもちっとも心は休まらない。