私がリビングに戻ると
ノブ君は「あとはチキンを焼くだけだよ」
そう教えてくれた。

彼は私より料理が上手。

優しくて綺麗な肌をしている男性。
一生のつがいとして生活を共にする男性。
お互いに大切な人間。

【情をもつのはいいけれど、相手に恋をしてはいけない】パンフレットに書いてあった規則。

恋って、なんだろう。
以前はわからなかったけど
今ならわかる。

私は30%の人間だから
彼に泣きながら事実を告げだ。


「卵ができた」

そう言うと
ノブ君の額に神経質そうなシワが眉間に寄る。

ノブ君はゆっくり私に近寄り
優しい手つきで私の首筋を触った。

「まだ光ってないけど、ゴロゴロしてるから明日辺り光るかも」

涙が止まらない。
残酷な事実に涙が止まらない。

ノブ君は「ごめん」と、苦しそうな声を出し
私を包むように抱きしめる。

彼も30%の人間かもしれない
そうじゃなきゃ『ごめん』なんて言葉は出ない。

私達はしばらくそのまま抱き合い
記憶のない母親の姿を探す。
十ヶ月後
自分達が手放す卵を想像し
まだまだ先の話なのに
出会う前から別れが辛くて
悔しくて情けなかった。