「……今は迅を見守りたい。たぶん最期の時間だから」
「そっか」

聖は頷いた。たぶん聖にも私の気持ちはわかるのだろうと思う。きっと、聖が私の立場でも迅を見送る覚悟を決める以外できることはなかった。

「俺、兄ちゃんの気持ち少しわかるんだ。こんな形でお別れの時間をもらって、家族の前に顔を見せらんなかった気持ちとか。絶対辛いもんな、二度目の別れの方が。真香は、いつ来るかわかんない兄ちゃんの終わりに付き合ってくれてる。ありがと」
「私が好きでやってることだから、御礼とか言われる感じじゃないよ」
「兄ちゃんは不本意かもしんないけど、俺、兄ちゃんに会えてよかったよ。こんな形でもさ」

そう言った聖の目からはまたぽろぽろと涙がこぼれた。

そうだよね。私だってまだ涙が出る。私も聖も一度は迅を見送った。這いつくばって慟哭した日々はまだ生々しく身体と心に残っている。だから再会は思わぬプレゼントだった。苦しい結末が待っているとしても。
私たちにとって本当の別れはこれからなのだ。

「聖、部活なんて休んじゃえば?」
「どういうことだよ」

涙を拭って問う聖に、私は向き直った。

「ひと夏、一緒にここにいようよ。迅と思い出作った方がいい」

聖は少し黙って、それから首を振った。

「いや、俺は帰る。たぶん、一緒にいた方がつらい。真香に最後の見送りを頼むのは申し訳ないけど」
「私だって見送れるかわかんない。迅、いつまでこうして幽霊やってるか不明だし、夏が終わったら私も東京に帰る。……案外、ずっとここで幽霊やってるかもね」

迅が成仏する道を失った幽霊であるならば、成仏を待つ必要はなく、生者と死者いう関係性でも私たち三人は週末や長期休みにこうして兄弟に戻れる。

「そうかな。たぶん、兄ちゃんはそのうちいなくなるよ」

私の言葉をやんわり否定して、聖は大人びた笑顔になった。

「なんで、わかるの?」
「兄弟の勘、なんちって」

くしゃっと笑った聖の顔は、少しだけ迅に似ていた。