「迅、こっちこっち!」
私は改札前でジャンプしながら大きく手招きした。JRや地下鉄の改札のある地階から迅が階段を駆けあがってくる。
「電車出ちゃうよ!ほら!」
私は迅のために買っておいた特急券を渡した。
「ごめんなぁ、買わせちゃって」
「いいよ、一緒に行きたかったし。電車乗ろ」
私はホームに来ている特急の特別改札を抜けた。後から迅も続く。幽霊でも改札が反応する、なんて奇妙な感動を覚える。
ひいおばあちゃんの家は隣県。特急電車で都内の主要駅から80分の距離だ。思ったより近い。
当初迅は、夜になると透けてしまう幽霊状態を活かして、自分はトラックか何かに便乗していくと言っていた。私に交通費を出させるのが忍びないってことみたい。だけど、私がそんなのは嫌だから、昼間に一緒にきてもらった。あまりお小遣いを使うほうじゃないから、私にはそこそこの貯金がある。
「どこに行ってたの?」
指定の座席につき、小振りのスーツケースを網棚に載せる。
迅はへへっと笑い、ジーンズのポケットから封筒を取り出した。
「じゃ~ん、軍資金~」
見れば、中身は十万円ほどの現金だ。驚いて見上げると、迅が得意げに笑い、それからはっとした顔で言い訳を始めた。
「言っとくけど、盗んできたとかじゃないからな!!」
「……うん、それはわかるけど……」
「へそくりだよ、へそくり。俺、金使い過ぎないように手元に現金おかないようにしてたんだよな。でも、急に必要なときってあるだろ?飲み会とか、異動の祝い金とかさ。そういうとき用に金を隠しておいたんだよ」