「おーい、席着け」

チャイムが鳴るのと同時に、今日も髪をキッチリとオールバックに固めている担任の大きな声が響き、それぞれ自分の席に着く。

さっきまで騒がしかった教室が一気に静寂に包まれた。


一番うしろの席からでは全員の顔は見えないけれど、みんながどこを見ているのかはだいたい分かる。

前方に座っているクラスメイトの間から転校生の姿がちゃんと見えるようにと、俺は椅子を少しだけ横にずらした。


担任から少し距離を取った位置に立っているその子の顔は、俯いていてよく見えない。

手招きをしながら「もう少しこっちに」と担任に言われ、俯いたまま一歩だけ担任に近づいた。


長い黒髪は艶があって、触らなくてもサラサラなのだということが容易に想像できる。

長袖のブレザーから出ている手も、紺色のスカートの下から伸びている足も白い……って、これじゃーただの変態だ。



「今日からこのクラスの一員になる雪下美琴(ゆきしたみこと)さんだ。じゃー簡単に挨拶して」


担任にそう言われた雪下さんは、両手でスカートを軽く握った。なんだかこっちまで緊張してくる。



「雪下……美琴と言います。よろし……」


想像通りの高い声は、少し震えている。
よろしくお願いしますと言おうとして途中で言葉を止めたのか、それとも声が小さくてうしろの席の俺まで届かなかっただけなのかは分からない。

とにかく緊張しているだろうということだけは伝わる。