これまで沢山の質問を一方的にしたからか、もうなにを言ったらいいのか正直分からなかった。

寒いねとか、明日も寒いのかなとか、もうすぐ三学期が終わるとか、三年になったら色々大変だとか、そんなどうでもいいことしか浮かばない。

しかもそれらを俺が言ったとしても、彼女の声で言葉が返って来ることはきっとないだろう。

本当は一番聞きたいことがあるのに、俺はそれを口に出せずにいた。


どうして俺だけを避けるのか、どうして俺だけは見てくれないのかと。



ベンチの横に立っている一本の木を見上げると、枝の先が少しだけ膨らんでいた。桜の木だ。

広場に行けば数えきれないほどの桜の木が立っているというのに、どうしてこの木だけがここにあるのだろうか。


「桜、今年はいつ頃咲くかな」


白い息と共に独り言のようにポツリと呟くと、突然雪下さんが顔を上げて俺を見つめた。

唯一会話をしたあの日のように、俺から目を逸らさないその瞳に、一瞬息が止まったような感覚になる。


「あ、あの……そうだ、雪下さん、桜祭りって知ってる?」


この一瞬を逃したくないと思った俺は、雪下さんに向かって言った。


「三月下旬頃に毎年開催される結構有名なお祭りなんだけどさ、向こうの広場が満開の桜で一面ピンクになるんだ」


まるで何度も行ったことがあるかのような口振りだが、実際は一度も行ったことがない。

もし雪下さんと一緒に行きたいと言ったら……考えなくても断られるのは目に見えている。でも……。



「あのさ、雪下さん。もしよければ、一緒に……」

「……っ、私!」


突然立ち上がり声を荒げた雪下さん。

俺は口を開けたまま、雪下さんを見上げた。



「私……ぬの」


「えっ、なに?」


久し振りに聞いた雪下さんの声だったけれど、よく聞き取れなかった俺は同じように立ち上がると……


信じがたい言葉が俺の耳に届く。




「私ね……、死ぬの」