駅に着くと改札へは行かず、そのまま反対側の出口に出た。

家に帰っても特にすることはないし、あれから何度か行っているここの図書館が実は気に入ってしまった俺は、体を温めるのと同時に読書でもしようと思ったからだ。


今はあまり本は読まなくなったが、小学生の頃は本が大好きで毎日読んでいたなんて言っても、誰も信じないだろうな。



歩きながらふと公園の方を向くと、青いベンチに座っている人のうしろ姿が目に入り、思わず立ち止まる。

ベンチの横には一本だけ木が立っていた。


図書館に向いていた体を方向転換し、再び歩き出す。


風に揺れる長い黒髪、近付く毎に俺の心臓の鼓動は激しくなっていく。



ベンチのうしろに着いた俺は、そのまま前に回った。

座っていた彼女の視界に俺の足が映ったのか、彼女が俯いていた顔を上げる。


「よ、よぉ」


ポケットに入れていた自分の右手を上げると、雪下さんは驚いた様子もなく、唇を噛みながら再び俯いた。


「えっと、ここ、座っていい?」


隣を指差したが、雪下さんはなにも言わなかった。

嫌だと言われたわけではないので、俺は人一人くらい入れるほどのスペースを空けて隣に座った。

ベンチの冷たさが、制服のズボンを通して浸透してくる。


俺は小さく深呼吸をして、左に座っている雪下さんに視線を向けた。


「今日休みだったけど、風邪?」


少し間を置いて、雪下さんは首を横に振った。

まぁそうだよな、風邪だったらこんな寒空の下にジッと座っているはずがない。


「こんな所でなにしてるの? 今日はいつもより冷えるから、風邪引いちゃうよ?」


なにも答えなかった。

雪下さんは自分の体を包むように両腕を抱き、ただジッと地面を見つめている。