「さぁ、分かんねーよ」

「自分のことだろ? 好きかどうかくらい分かるだろ」

「本当に分からないんだ。だってよ、まともに喋ったのは一回だけだし、それも短い会話だった。雪下さんのことなにも知らねぇし、性格も分かんないんだぞ? それで好きになることなんて……」

「あるだろ」

「は?」

「なんか分かんないけど好きになるってこともあると思うけど。ただなんとなく気になるとか、まだ知らないけどこれから知っていきたいとか、そういうのも好きってことじゃねぇの?」


俺よりもはるかに恋愛経験豊富であろう大和に言われると、妙に説得力がある。

気になる、仲良くなりたい、この想いはつまり好きということなのだろうか。


「もし仮にそうだとしても、雪下さんは俺のこと良く思ってないみたいだしな」


ため息混じりに呟き窓の方を見ると、カーテンの隙間から夕日が僅かに差していた。


「そうかな~? 俺には逆に見えるけど」

「逆ってなんだよ」

「雪下さんが転校して来てから俺なりに彼女のことを見てきたけどさ、確かに彰にだけ態度が違うけど、それってつまりこういう考え方も出来る」

「まどろっこしいな、ハッキリ言えよ」

「だから……」


すると大和は、少しだけ身を乗り出して俺に近付いた。俺も同じように顔を前に傾ける。


「雪下さんにとって、彰だけが……特別ってことだ」


「はっ!?」


思わず声を上げてしまい、咄嗟に口元を押さえて周囲に頭を下げる。


特別? 俺が? また突拍子もないことを言い出しやがって。そんなわけ……。


「そんなわけないだろ!」


小声で必死にそう伝えると、大和は言ってやったと言わんばかりに満足そうな笑みを浮かべている。