大和はきっと、卒業間近の先輩のことを考えたのだろう。

進学するのか就職するのか知らないが、問題が起こって将来に響いたらと心配したのかもしれない。

自分を殴った先輩のことを考えるなんてな。
俺だったら、これ以上面倒なことに巻き込まれたくないという理由で先生には言わなかったと思う。


同じ言わないにしても理由が全然違うな。そういうところも、やっぱり大和はイケメンだ。



教室に入り席に座ると、普段通りに授業が始まった。

まだ少し違和感のある左頬に手を当てながら授業を聞いていると、なんとなく視線を感じた。


チラッと右に目を向けると、雪下さんと目が合った。


俺が見ることはあっても、雪下さんが俺を見るなんて今まで一度もなかったことだ。


「どうしたの?」


小声で言うと、雪下さんはそれでも視線を逸らさない。

こんなに真っ直ぐ見つめられたのは初めてで、心臓がやたらとうるさいし顔も熱い。

もしかしたら俺だけがそう見えているのかもしれないが、こうしていると吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な瞳だ。



「それ……」

「え?」


「それ、どうしたの?」


 机の上に置いた雪下さんの手が、俺の顔辺りを指差している。


「それって?」


「ほっぺ……赤い気がするけど……」


鏡を見ていないから分からなかったけれど、赤くなっていたのか。

俺は頬に当てている自分の手を離し、窓の方を向いた。

窓ガラスでは頬の赤みまでは映らず、ハッキリ分らなかった。