チャイムが鳴る五分前、いつも通りクラスメイトや知っている奴に適当に挨拶をしながら、汚れて黄ばんだ廊下の壁を横目に二年三組の教室に入る。
三学期でようやくクジの神様が微笑んでくれて手にした窓際の一番うしろの席、そこに座り鞄を机の横にかけた。
クラスメイトのほぼ全員が登校していて、いないのは数人といったところか。
窓の外に見えるのは、渡り廊下を挟んで反対側にある校舎。
三年の教室とパソコンルーム、家庭科室とか音楽室とか各科目で使う教室がある。
ここからでもよく分かるのは、くすんだクリーム色の壁だ。
所々ヒビまで入っていて、崩れることはないだろうが少し心配だ。とは言え、入学した頃から見ているのでなんら違和感はない。
いつもの校舎にいつものクラスメイト、なにも変わらないはずなのに、この日はなんとなくいつもの朝とは違っていた。
「どうやら女らしい」
「まじで? 可愛いかなー」
「転校生が超絶美人とか、漫画の読み過ぎだろ」
「でも一組の奴が見たって言ってたぞ」
真ん中のうしろの席に集まっている数名の男子の会話が気になった。
他の男子も心なしかどこかソワソワしている様子で、そんな男子を呆れたような目で見ている女子。
どうやらこのクラスに転校生がやって来るみたいだ。しかも女子。これがイケメン男子だったなら、今の状況は男女逆転していただろう。
誰かが職員室に行った時にたまたまうちのクラスの担任と一緒にいる転校生を見かけ、そしてその噂はあっという間に広がったという感じだろうか。転校生か、聞こえてくる会話をまとめると可愛い女子らしいけれど……。