階段を半分くらい上ると、さすがに息が乱れてきた。子供の頃は走って上っていたのに、体力が落ちたな。
三月に入ったけれど、まだまだ冬の寒さを引きずっていて風はひんやりと冷たい。
「あかり、大丈夫?」
「うん、平気」
少し前を歩く遥は昔から運動が得意で、私よりもずっと体力がある。全体的に体は細いのに、どこにそんな筋肉が付いているんだろう。
「ほら、あと少しだから頑張って。その荷物、持とうか?」
両手には小さくたたんだブランケットとお菓子が入った袋をそれぞれ持っていて、遥がそれを指差した。
「大丈夫、ありがとね」
頂上に近くなってくると額には汗が滲み、体はすっかり温まっていた。ジャージの袖を捲った私は、残り数十段の階段を一歩一歩踏みしめる。
姿は見えないけれど、どこかから鳥のさえずりが微かに聞こえてきた。
顔を上げると木々の隙間から見えるのは、透き通るような空の青。降り注ぐ木漏れ日に、目を細める。
私はあと何回、この階段を上れるのだろう。
「あかりー!」
一足先に上り切った遥が、私に向かって手を振っている。その笑顔を目指して、最後の力を振り絞った。
はぁはぁと息を切らして最後の一段を上がると、待っていた真人が私の手からスッと荷物を取った。
「真人、ありがとう」
「お疲れさん。つい最近まで余裕で上れてたのに、あかりも年取ったな」
「まだ十八だけどね」