二十三時を回ったとき、さすがに不安になった。

食事が不要なら、必ず連絡をくれる人だ。そうでなくても、ここまで遅くなるようなら、一報があってもいいはず。

何度か送ったメッセージは読まれず、電話はつながらない。

まさか、なにか──…。

携帯に手を伸ばした瞬間、玄関で物音がした。

廊下に飛び出して、玄関に走った。久人さんはなぜか、鍵を開けるのに苦戦している。私は内側からロックを解除し、ドアを開けた。

ドアのすぐ向こうに立っていた人影が、「あれ」と場にそぐわない、のんびりした声をあげる。


「ひ、久人さん…?」


そこにいたのは、確かに久人さんだったのだけれど。私は目を疑った。

彼が、立っていられないほど酔っ払っていたからだ。

焦点の合わない目で、彼が私を見る。ドアに手をかけて身体を支え、ほんの少しの敷居の段差につまずきそうになりながら、中へ入ってきた。


「ただいま」

「お帰りなさい…ど、どうしたんですか」

「どうしたって…?」


ものすごいアルコールの匂いがする。久人さんがここまで酔うなんて、文字どおり浴びるほど飲まないかぎりあり得ない。


「どなたかとご一緒だったんですか?」

「んーん」

「おひとりで…?」


危なっかしい足取りで、靴を脱いで廊下へ上がる。見かねた私が鞄を引き取っても、なにも言わないどころか、たぶん気づいてすらいない。


「久人さん、ご気分は」

「気分」


くり返すと、脈絡なくくすくすと笑い出した。声だけはやけに陽気で、酔っぱらいそのものだ。

久人さんは壁に手をついて、めまいを逃がすみたいにしばらく立ち止まったかと思うと、そのままずるずると座り込んでしまった。