次原さんは対面のソファに腰を下ろし、「冗談です」と両手を軽く広げた。


「冗談て、どこの部分がですか?」

「見ないでくださいと言ったことです」


あれ、そこなの。


「ということは…」

「調査結果は本物です。ですが見ていただいて問題ありませんよ。彼が現在、クリーンであることを証明するものですから。先方から、第三者に調べさせて提出しろと言われたものです。履歴書の延長みたいなものですかね」

「先方というのは…?」

「高塚さんが入る、お父上の商社ですよ」


なんとも嫌な気分になった。迎え入れるために、そこまでするの。気になるなら自分たちで調べればいいものを、本人に提出させるという傲慢さも嫌だ。

顔に出ていたんだろう、次原さんがなだめるように微笑む。


「そういう会社であることは、彼も承知の上なんですよ」

「そうなんでしょうけれど…」

「古く、巨大な会社です。幹部は高塚一族で占められていて、女性関係のゴシップが発覚しようものなら、ただちに役員生命は終わる。未婚の役員も、ひとりの前例もありません。日本企業としては決して珍しくない」

「久人さんは、そんな会社で、今みたいに楽しめるんでしょうか」


思わず、訴えるような口調になってしまった。次原さんに言っても仕方のないことなのに。

じっとこちらを見返す視線から逃げるように、私は封筒の中身を取り出した。想像していたより、はるかに詳細な報告書だった。封筒に印字されている事務所名は、おそらく興信所だ。

数カ月ぶんの久人さんの行動記録、通信記録。それから何人もの女性の写真と、彼女らに関する報告。『接近・なし』『通信・なし』…。


「この方たちがみんな高塚さんの過去の相手というわけではありませんよ。一方的に近づいてきただけという人も大勢います」

「それは、いいんですが…」


久人さんはこの期間、監視されていると知っていたわけだ。だけど私にわかる限りでは、そんな素振りはまったく見せなかった。