つい、悲鳴みたいな声をあげてしまい、私は「すみません」と慌てた。


「お義父さまは、久人さんから大事なものを取り上げたいとは、思っていらっしゃらないと思うんです」

「そりゃそうだよ、だから俺は、こうしてあの人の息子でいられる」

「そうじゃなくて…」


だめだ、通じない。

"思考停止"という樹生さんの言葉が、頭の中で点滅した。

久人さんはそれでも、私の言わんとすることを探り出すように、首をかしげてこちらを見つめていた。けれどやがて、困り果てた顔で、弱々しく微笑んだ。


「ごめん、桃がなにを言いたいのか、ちょっとわからない…」


ぽっかり欠けた、久人さんの心の一部。

天国のお父さん、お母さん。

私に、そこを埋めることなんて、できるんでしょうか。