「事前に聞いていた待遇と違ったりしたら、僕たちのほうから申し立てることもできますから、遠慮なく教えてくださいね」

「ありがとうございます。さいわい、聞いていたよりもいいくらいで…」


そこで、ふと思いついた。


「私が退職したりしたら、エージェントさんにもご迷惑がかかりますか?」

「ん? それは、ただちに、ということですか?」

「ええと、はい。あくまで、たとえばですけれど」


うーん、とアドバイザーさんが腕を組む。


「ぶっちゃけたところを申し上げますと、転職後一年間は、我々はクライアントさんに対し責任があります。我々の斡旋した方がその期間内に辞めたり、問題を起こしたりした場合、クライアントさんは『話が違うじゃないか』と我々に対して言うことができます」


そういう仕組みなのか。

予想外に人材業界の裏側を知ることができて、へええ、と聞き入ってしまった。アドバイザーさんがひとつうなずき、続ける。


「ただしそれは、かなりの例外です。誰にも事情がありますし、会社を移る権利だってある。今すぐ御園さんが辞められたとしても、半自動的に我々に情報は入ってきますが、会社と円満でしたら、なんの問題にもなりませんよ」

「なるほどです…」

「なにかお力になれますか?」


ちょっと首をかしげ、彼が聞く。そうか、人が勤め先を辞めたくなったとき、彼らの出番なのだ。

もしかして、久人さんがいなくなったあと、私もお役御免になる流れが来たりするのかなと思っただけだった私は、期待させてしまって申し訳なくなった。


「いえ、すみません、ただお聞きしてみたかったんです」

「なにかありましたらご連絡くださいね。そうだ、部署名がちょっとばかり変わりましたので…」


アドバイザーさんが、上着の内ポケットを探る。ついでに、道の真ん中で立ち話をしていた私を、手で招き寄せ、端のほうに連れていった。