「はい、遅くなったけど、食事会お疲れさま」


樹生さんの声で乾杯をした。私はカクテル、ふたりはウイスキーの水割りだ。


「樹生も、仕切りありがとね。父さんたちから礼状が来てさ、終始たのしい時間だったって、大好評だったよ」

「そりゃよかった。桃子ちゃんの奮闘の成果だね」

「ありがとうございます」


私もグラスを合わせる。「アペタイザーは頼んでおいたよ」という樹生さんの言葉のとおり、すぐにカナッペやカルパッチョが運ばれてきた。

樹生さんといるときの久人さんは、くつろいでいる。ご両親の前とは違う。身長があるぶん、食べる量も多い彼らは、メニューを吟味しながら、たのしそうに近況報告をし合っていた。


「久人もいよいよ伯父さんのところに入るんだろ? 善戦しような」


お腹もふくれ、あとは飲むだけとなった頃、樹生さんがテーブルの上の久人さんのグラスに、自分のグラスをカチンとぶつけた。

久人さんがグラスを持ち上げ、「よろしくね」と笑む。

その会話を聞いて、あれっと思った。


「樹生さんも、同じ会社に移られるんですか?」

「そうだよ、これから一生かけて久人のサポートをするのが、俺の使命」


樹生さんも、グループとは関係ない会社にお勤めのはずだ。ふたりそろって、一族の企業に入るということか。


「そういう約束なんだよ、幹部候補として修業する時期が来たら、決まった会社に入る。勉強することは山ほどあるからね」


久人さんがグラスを揺らしながら、隣に座る私を見た。


「もったいない気もしますね、おふたりとも、今の会社で活躍されてるのに」

「それが決まりだもん。そのときまでに結婚しておけっていうのも、決まり」


えっ…。