なぜ突然、フルで秘書業務を務めることになったのか、やってみてわかった。

久人さんが出社を減らしたのだ。

ほかの会社で忙しくしているらしく、その分、このコンサルティングファームでのフォローが密でないと追いつかない。


「御園さん、よかったら一緒にお昼行きません？」


昼休み、執務室から出たところで、管理部門の女性が声をかけてくれた。庶務業務の際、一緒に仕事をする方だ。


「はい、ぜひ」

「お茶漬けのお店が近くにできたの、行ってみましょうよ」


去年ここに入ったという、三歳上の彼女は、ほわっとした笑顔を浮かべ、エレベーターのほうへ私を手招きした。




「御園さんて、高塚アドバイザーの奥さまなんですよね？」

「はい、同じ会社に来たのは偶然ですけど」

「あはは、それも噂になってました。どれだけ引き寄せ合ってるんだよ、って」

「そういうわけでは…」


真新しい木の香が漂うお店で、頼んだものが来るのを待つ間、そんな話になる。

店内は涼しすぎるくらい冷房が効いていて、私は持ってきたカーディガンに袖を通した。


「アドバイザーって、どんな方ですか？　私たちには雲の上の人すぎて、実はあんまり生態がつかめてなくて」


生態！

彼女の言うとおり、久人さんは仕事上、各チームのリーダークラスの人としか直接はかかわらない。


「ガンガン案件を取ってくるから、売り込みもうまいし人脈もあるっていうのは伝わってくるんですけど。すごくいい人〜みたいな話も聞くし、仕事の鬼っていう話も聞くし」

「うーん、そうですねえ…」


たしかにどのタイミングを切り取るかで、どちらの評価になってもおかしくない。