リビングに移り、ゆっくりとコーヒーカップを傾けながらのひととき、お義父さまが私たちに微笑みかけた。


「ふたりが驕らず、寄り添って暮らしているのが、住まいから伝わってくるよ」

「わかるわ、自由とつつましさを感じる、すてきな家庭を築けてよかったわね、久人」

「父さんたちのおかげです。それと仲人の、蓮沼(はすぬま)さん」


蓮沼というのは、お見合いをすすめてきた、私の母方の叔父だ。今となっては本当に、感謝しかない。

久人さんはにこっと私に笑顔を向け、「今日、お疲れさま、ありがとう」と、カップに添えていた私の手を軽く握った。

私は彼らの会話を聞きながら、内心で首をひねっていた。

ずっと感じていた、久人さんとご両親との関係の不思議。

すごく礼儀正しいのだ。

よそよそしくはない。親しげで愛情にあふれているのを感じる。だけどそれは、たとえるなら会社の上司と部下みたいな、一定の線が引かれた愛情だ。

久人さんがご両親に向ける視線は、尊敬と親愛に満ちているし、ご両親も心から息子の幸せを喜んでいるのがわかる。

だけど、これが家族の団らんの会話?と思ってしまうくらいには、距離がある。

久人さんは、どんな人が相手でも、打ち解けるツボをすぐに心得て、するっと懐に入っていくのがうまい。

それを知っているだけに、ご両親を前にした彼の姿は、違和感があるのだった。




「あーもう、お疲れさま! ほんとに!」


ご両親をエントランスまで見送って戻るなり、久人さんがソファに私ごと倒れ込み、頭をぐしゃぐしゃになで回し、抱きしめて熱烈なキスを何度も降らせた。

うわ、わ、待って、待って。


「あの、樹生さんがまだいらっしゃいますし、お手洗いに」

「手伝わなくてごめんね、大変だったでしょ、でも最高のもてなしだったよ」


身体を離し、久人さんが私を見下ろす。彼のうしろに、リビングのランプシェードが見える。