「どうしたの、桃」

「忘れてました…!」

「え、この夫婦、いろいろ忘れすぎじゃない?」

「忘れてたって、なにを?」


私は青くなり、へたへたとラグの上に座った。


「お食事会のことをです…」


ふたりの視線が注がれる。

やがて樹生さんが、「ありゃ」と気の毒そうに言った。


* * *


キッチンでデザートの用意をしていると、樹生さんがやってきた。


「お疲れさま、一週間でよく準備したね」

「準備、できてましたか…」


頭の中は段取りでいっぱい、目先のデザートの仕上げで手元もいっぱいいっぱいの私は、泣きそうな声で尋ねた。

品のあるループタイにベスト。身内のきちんとした食事会にふさわしい服装の樹生さんは、にこっと笑って親指を立てた。


「満点。メインをオーブン料理に振り切ったのが英断だね、桃子ちゃんも席について、ゆっくり彼らと話すことができた。このプランは二重丸!」


『彼ら』というのは、久人さんのご両親だ。

私はそっとダイニングを覗き、久人さんとご両親が歓談しているのを確認した。


「久人さんのアドバイスなんです。無理にコース料理にしなくていいよって」

「そのとおり。千枝(ちえ)さんは料理をしない人だから、無邪気に人の家に来て人の手料理をおねだりしてるだけだ。なにかを見定めてやろうなんて魂胆はない。省ける手間は省いたらいいんだよ」


新居での食事会について、熱を出すまではあれこれ考えていたのだ。

準備に使うはずだった週末を寝込んで過ごしてしまった私は蒼白になり、すると久人さんが、『むしろホームパーティみたいなほうが目新しくて喜ぶよ』と教えてくれたのだった。