あれ?

私、今なにを言った?

樹生さんが私を見下ろし、やれやれとばかりに肩をすくめる。


「それは失礼しました」

「いえ…」

「こりゃ、久人からもなに聞かされるかわかんないなあ」


壁に寄りかかった彼の、冷やかしの視線を浴びながら、私はこれ以上失言する前に着きますようにと、頭上の階数表示をにらんでいた。




「なんで俺が突然押しかけてきたみたいになってんだよ、約束しただろ」

「桃に言うの忘れてた…」


リビングに案内し、アイスティーをいれたあたりで、久人さんがシャワーから上がってきた。

黒いポロシャツにチノパン姿で、樹生さんの向かいのソファに座る。髪は濡れたままだ。

彼の前にもアイスティーを置くと、「ごめん」とすまなそうに言った。


「言うの忘れてたし、今日がその日なのも忘れてた。ダブルでごめん、桃」

「片方は俺にごめんだろ、それ」

「なんの用だっけ?」

「食事会の相談だよ! お前が俺に、仕切りを任せたんだろ!」


忘れたふりをしていただけだったらしい久人さんは、「はいはい」といなして黒い手帳を開く。アイデアを書き留めるときと話し合いをするときはアナログ、が彼の主義だ。

トレイを持って立ち去ろうとしていた私の頭の中を、食事会、という響きがふわふわ漂った。

それが着地したとき、私は叫んだ。


「嫌────!!」

「わあっ!?」


久人さんたちが、びくっと反応する。