久人さんは笑った。


「いいよ」

「あの」

「これでわかるから」

「え?」


長い腕が、肩を抱き寄せた。頭が力なく揺られ、彼の鎖骨のあたりにぶつかる。

覗き込まれた、と思った瞬間、柔らかな感触が唇に触れた。

ほのかな桃の香り。

呆然とする私に、久人さんは噴き出し、「目を閉じな」と頬に手を添える。

閉じると、さっきと同じ感触が、今度は私の唇のあちこちを味見するみたいに、軽く噛んでは甘く吸って、柔らかく重なって、その間中、久人さんの香りと体温が、すぐ鼻の先、信じられないほど近くにあった。

キスの距離は、ゼロ。

くっつくって、こういうことかと思った。


「これで、妻の務めとかいうの、少しは果たした気になる?」


濡れた音を立てて、腕の中の私に、何度も口づける。

私はどちらかというと、また一方的にもらってしまった気がしていたので、頭痛に響かない程度に首を振った。

久人さんはぷっと笑い出し、私を両腕でぎゅっと抱きしめ。

「もっとってこと?」と勝手に解釈して、私が茹るまでキスを続け、のぼせてふらふらになった私を見て、また笑った。