「上げ膳据え膳が当然のお嬢様なのかな。やっぱり嫁には不足か」

「…行きます」

「根性だけは合格と」


失礼な人。

この場を去ることもできたのにそうしなかったのは、このあけすけな人に興味が出てきたのもあるし、その失礼さを補って余りある魅力を持っているように見えたからでもある。

白状すれば、ただの怖いもの見たさと言える。

私はバッグとコートを持って立ち上がった。




「なに食おうね」

「私、このへんまったくわからないんです」

「あ、そうなんだ? 俺、職場が近いから少しわかるよ。騒がしくないところだと、焼き肉、韓国料理、和食…イタリアンもある。どれがいい?」


テレビ局なんかがある新しい街を歩きながら、うーんと考えた。

食べたい度合いで言ったらどれも同じくらい食べたい。けれど今日は白いブラウスなのだ。汚してしまいそうなものは避けたい…。


「今日は、和食で」

「了解」


高塚さんはにこっと笑い、どこかを目指して路地を入った。


「あの、高塚さんは」

「久人でいいよ」

「久人さんは、お仕事はなにを? 経営コンサルタントをされているんですか?」

「コンサルもしてるし、自分で経営もしてる」

「身上書は、シンプルでしたよね」

「いろいろやってるから、ああいうところに全部書くのめんどくさくて。資格とか細かく列挙されてると引くじゃない?」

「わからないでもないです」