彼の剣幕に私は飛び上がり、預かった鞄を抱きしめる。


「そんなに残業もしてませんよ…?」

「俺より一時間くらい先に帰っただけでしょ、それで風呂もメシも支度ができてる? 帰宅してから、全然休んでないってことだろ!」

「え…」


靴を整えてから上がってきた久人さんは、「こういうのも、いいから」と私から鞄を取り返し、廊下の奥の書斎へ入ってしまう。

私は少しの間、所在なく佇み、ごはんを温め直すためにキッチンへ行った。




「うまい」


難しい顔をしてお箸を口に運び、久人さんがつぶやく。


「よかったです」

「うまいけどね」


私はぎくっとして、対面の席で頭を下げた。


「盛り付けは失敗した自覚があります、すみません!」

「謝らなくていいし、盛り付けの話でもなくて!」

「え?」

「桃、今朝、何時に家を出た?」

「あ、おかわりありますよ」


手を出すと、それと自分の手元を見比べた久人さんが、むっつりした顔のままお椀を差し出す。


「ごまかしてるでしょ」

「はい」


キッチンでおみおつけの残りをよそいながら、正直に答えた。

早くに出たのだ。基本、久人さんより早く出る私だけど、いつも以上に。


「昼はどこで食べた?」

「デスクで…」


目つきで、仕事をしながら軽くつまんで済ませたのが、ばれているとわかる。