家族。


「いえ…」

「暗くなる前に、行こっか、買い物」

「久人さん」


キッチンで手を洗いながら、久人さんが「ん?」と返事をする。


「ありがとうございます」


彼はきょとんとし、「そんなにキッチンを使いたかったの?」と笑った。

ぴかぴかのカードが、宝物みたいに感じる。

私は大事に大事に、それをお財布にしまった。




──千晴さん、緊急事態です。


「肉はどうする? マリネしとく?」

「マ…?」


言ったそばから久人さんは手早くタマネギをおろし、缶詰のパイナップルを刻み、お醤油と…そこからはもう、鮮やかすぎて追えなかった。

一方の私は、ようやくパプリカをひと口大に切り終えたところ。


「でーきた。明日の夜は、これを楽しみに早く帰るとしようかな」


牛肉をマリネ液と一緒にジップ付きの袋に入れ、丁寧に空気を抜き、冷蔵庫に入れる。


「あとはなにを手伝う?」

「手伝っていただくには、久人さんのスキルが高すぎて…」

「だって俺、料理好きだもん」

「はやく言ってください!」


どうりで買い物も迷いがないと思った。

ようやく慣れてきた手料理を、久人さんに振る舞う…なんてつもりでいたけれど、とんでもない。私のほうが足手まといだ。


「桃だって上手でしょ、引っ越す前に開いてくれたディナーパーティ、すごくおいしかったよ」

「あれは、ほとんどが千晴さんの力で…」

「トマトには絶対に火を通さないでね」

「え?」