「いいよ、別に」

「でも」

「遅かれ早かれ、俺はいずれ罪人だ」


枕に埋まったまま横を向くと、久人さんが頬杖をついてこちらを見ていた。


「ご両親や千晴さんの、大事な桃の、大事なものを、奪うんだからね」


いつもより、少しとろとろと、気だるげな笑み。それがすいと寄せられ、耳元で濡れた音を立てる。


「引っ越し、楽しみだね」


キスされた耳がぐんぐん火照り出す。

枕に顔を埋め、からかい半分の視線から逃げる私を、久人さんは楽しそうに声をたてて笑って。


「そろそろ起きるよ」


そう言うくせに、タオルケットの上から私を抱きしめ、「重いです」と私がギブアップするまで離さなかった。


来月、久人さんとの暮らしが始まる。